天親菩薩造論説 帰命無碍光如来

原文 書き下し文
天親菩薩造論説 (天親菩薩は論を造りて説かく)
帰命無碍光如来 (「無礙光如来に帰命し
   たてまつる」と)

目次

     
  1. 親鸞聖人の尊敬
  2. 天親菩薩の聞法のきっかけは?
  3. 天親菩薩のなされたこと
  4. 無礙光如来とは?

親鸞聖人の尊敬

これは「天親菩薩は論を造りて説かく、
「無礙光如来に帰命したてまつる」と。
修多羅に依りて真実を顕し
」と読みます。

親鸞聖人が、
天親菩薩(てんじんぼさつ)がおられたなればこそ、親鸞、阿弥陀仏に救われた」と天親菩薩を大変尊敬され、その御恩に感謝され、皆さんにも天親菩薩の教えられた事を聞いてもらいたい、と紹介しておられるお言葉です。

天親菩薩は、お釈迦様が亡くなられて、約900年後にインドで活躍された方です。

親鸞聖人のお名前の「」という字は、天親菩薩の「」の字をもらっておられますので、親鸞聖人が、いかに天親菩薩を尊敬され、しかも親しみをもっておられたかが分かります。

そんな天親菩薩ですが、最初から立派な方だったのでしょうか?

天親菩薩の聞法のきっかけは?

天親菩薩のお兄さんの、無著菩薩(むじゃくぼさつ)は、初めから仏縁深く、仏法一筋に生きていたのですが、弟の天親は、そうではありませんでした。

頭は良かったのですが、最初は聞き誤って伝えられた小乗仏教に迷ってしまい、正しく伝えられた大乗仏教を謗り、謗法罪を重ねていました。

お兄さんの無著は、とても弟思いだったので、弟の天親を心配して、事あるごとに「お前も本当の仏教を聞いてみろ、お前の思っているのと全然違うから」と誘います。

お兄さんは、何とか弟を助けてやりたいと思ったのですが、あまりにしつこく言うので、とうとう天親は、家を出ていってしまいました。

無著菩薩が、人に頼んで探してもらったところ、ある町にいることがわかりました。

どうしたら弟が真実聞いてくれるか、色々と考えて、無著菩薩は手紙を書くことにしました。

私は、体を悪くして、医者は、今日か明日か、と言っている。
 今生の最後に、どうか一目顔を見せてくれ

さすがの天親も驚いて、お兄さんに会いに戻ってきます。

ところが家に帰ると、何と、無著菩薩が大きな声で説法をしていました。

天親は、
お兄さん、をついたな。
 本当の仏法を聞いている者が、嘘をついてもいいのか

みんなの前で、ののしりました。

ところが無著は
嘘ではない。
 体は元気だが、心が病気なのだ。
 仏法を謗り続けるお前のことが心配でならないのだ

そして、一対一で懇々と話しました。

すると、兄の思いが通じて、天親はがらりと変わったのです。
謗法罪がそんなに恐ろしい罪だとは知らなかった」と泣き出して、包丁を持ち出し、舌を切ろうとしました。

無著が
早まるでない」と言うと、
天親は
こんな恐ろしい謗法罪を作ったのはこの舌だ。
 舌を切ってお詫びするしかない

と命を絶とうとしました。

無著は
ばか者、そんなことでお前の罪は消えはしない。
 お前がそんなに思うなら、その舌で、まことの仏法を誉めたらよい

誉めるというのは、仏法を伝える、ということです。
天親菩薩は、
よし、仏法をそしったこの舌で、今度は仏法を伝えるぞ
と大乗仏教を求め、広め始めました。

そして、大変頭のよい方だったので、七高僧に数えられるまでになりました。

説法もすばらしく、本も多く書かれましたので、「千部の論主」とも言われます。

その天親菩薩は、どんなことをなされたのでしょうか?

天親菩薩のなされたこと

親鸞聖人は「天親菩薩論を造りて説かく
天親菩薩は、論を造って説かれた、とおっしゃっています。

」とは、天親菩薩が書かれた浄土論のことです。
天親菩薩が沢山書かれた本の中でも、最も有名な本が、浄土論です。

その浄土論に天親菩薩が書かれていることを、
親鸞聖人は、ここで紹介されて
帰命無碍光如来」とおっしゃっています。

天親菩薩が、
私は無礙光如来に帰命しました
とおっしゃっているお言葉です。

では、無礙光如来とはどなたのことでしょうか?

無礙光如来とは?

無碍光如来」とは、阿弥陀如来のことです。
阿弥陀如来とは、蓮如上人は御文章

ここに阿弥陀如来と申すは、三世十方の諸仏の本師本仏なり。
               (蓮如上人『御文章』)

とハッキリ教えておられます。

三世十方の諸仏」とは、大宇宙に数えられないくらいにまします、仏方のことをいいます。
本師本仏」とは先生という事ですから、阿弥陀如来は、大宇宙のすべての仏の先生ということです。

帰命」とは、救われた、助けられたということです。

ですから、帰命無礙光如来とは、
この天親は、阿弥陀如来に救われました」ということです。

天親菩薩の教えられた通り、
親鸞聖人も『正信偈』の最初に
帰命無量寿如来
親鸞は阿弥陀如来に救われました、と喜んでおられます。

この親鸞、天親菩薩のお導きがなければ、弥陀の本願に救われることはなかったであろう。
 天親菩薩のご恩を忘れることはできない。
 皆さんも天親菩薩の教えを聞いてもらいたい

と書き記された、『正信偈』のお言葉です。

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